Gail Tripp and Jeff R. Wickens
Journal of Child Psychology and Psychiatry 49:7 (2008), pp 691–704
個人的に信憑性のある理論だと思うが、肝心の「なぜADHDでドーパミンの反応の対象の転移が起こりにくくなるのか」については、大した説明がない。
最後の章で触れてはいるものの、関連する脳部位とそれらの寄与を挙げる程度。
受容体の発現とかシナプス可塑性レベルの話が読みたかった。
〈アブスト〉
この総説では、ドーパミン信号の変化が、ADHDの子どもの報酬への感受性の変化をできるという仮説を検討する。
まず、正の強化に関係したドーパミン活動についてまとめる。
特に、報酬から手がかりへのドーパミン発火の転移に注目する。
ADHDの子どもはドーパミン反応の転移に問題があるという説(DTD)を提案する。
DTD理論は検証可能である。
次に、DTDが説明できる現象について議論する。
最後に、DTDの原因の神経機構について考察する。
イントロ
ADHDは…
病因がよく分かっていない。
診断は
単一の病因によるのではなく、また複数の亜型が
遺伝性があり、D4受容体やDATの多型と関連が
様々な遺伝子が少しずつ関与してそうである。
1991-2004の研究では、D4受容体、D5受容体、DAT、SERTの4つの遺伝子が
DBHやHTR1T、SNAP-25も
尾状核の解剖学的差異や、線条体の血流の低下、DAT結合の差異なども報告されている。
しかしADHDの病理の知見は限られており、また細胞レベルの機構はほとんど
行動レベルでは、強化への反応性が違う国が示唆されている。
歴史的に、ADHDの子どもは満足を遅らせるのが苦手で、規律に従いにくい。
集団では、ADHDの子どもは強化の部分スケジュール?での成績が悪い。
またより衝動的に強化子に反応する。
1986-2003のヒトでの研究から、最近Lumanらによってまとめられた方法論が確立された。
このまとめでは
しかしまだ一貫性に乏しい部分はあり
一つの原因として考えられるのは、検証可能な理論的枠踏みが乏しいからである。
しかしADHDで強化への反応に問題があるということは共有されている。
最近の行動研究では
Lumanらの主張に合致して、即時の報酬に対する選好がADHDの子どもで見られた。
Antrop (2006)らは、時間選好性が即時の視覚刺激の提示によって減じられることを示した。
Hoerger (2006)らは、時間選好性が教室内の
Neef (2005)らは、ADHDの子どもは、報酬までの時間と質の影響を強く受け、頻度と労力にはあまり影響を受けないとした。
Sagvolden (2006)らは、ADHDの子どもは頻繁な強化よりも稀な強化で、多様な反応を示すとした。
Scheres (2006)らはADHDでも時間選好に違いはないとしたが、方法論的説明をしている。
これらの知見は、ADHDが
この特徴は
いくつかの理論がADHDを説明するために
Sergeantの認知エネルギーモデル
Sanuga-Barkeの二経路モデル
Sagvoldenの動的発達理論(DDT)
Dayanらは計算モデルを提案
これらの理論は
この論文では
強化の正常な神経生物学的機構
行動レベルでは
動物研究では
SNcとVTAのドーパミン細胞の発火は可塑性に
ドーパミン細胞の活動は、正の強化子の到来に完全に追随するわけではない。
図1は
イメージング研究でも
動物実験は
ドーパミンの強化の効果の重要な特徴は
予測信号がない場合には
概して、…の遅れは学習効果を下げることが知られている。
強化子の橋渡し効果の細胞機構は
ADHDの強化機構変容理論
我々の、子どものADHDの強化機構変容理論は、いくつかの鍵となる仮定に基づいている。
1.正常な子どもでは、正の強化子に対するドーパミン細胞の反応は、先行する中性刺激に転移する。
2.正常な子どもでは、行動の強化(報酬獲得)が遅れる(あるいは不連続な)場合でも、手がかり刺激に反応するドーパミン細胞が、先に(あるいは連続的に)強化を行うことができる。
3.ADHDの子どもでは、ドーパミン反応の転移が起こらないもしくは不十分である。
4.ADHDの子どもでは、行動の強化が遅れる場合、先行するドーパミン信号を生じさせることができない。
5.正常な子どもでは、強化が不連続でもドーパミン放出が持続するので、反応が維持される。ADHDの子どもでは、このようなドーパミン放出が弱いため、反応が持続しない。
これらの仮定からDTD理論が導かれる。
以下の章では
DTDと強化の遅れ
行動学的には、強化子の到来が遅れる様々な状況が想定しうる。
先述の通り、この遅れは学習に影響を及ぼす。
概して、強化が遅れると学習の進行も遅れる。
この遅延が長いほど強化の効果が薄れるという現象は、"delay of reinforcement gradient"を呼ばれる(Catania, 2005)
多くの因子が
重要なのは、
DTD理論は
しかしこの転移には時間を要する。
また霊長類での研究で、手がかりに対する反応は(手がかりが存在しない場合の)強化子への反応より小さいことが示されている。
この強化の性質が
DTD理論は
先行するドーパミン信号の不在は、学習に影響しそうである。
TrippとAlsop(2001)は、3.5秒の遅れが、ADHDと非ADHDの行動に影響することを示した。
ドーパミン信号の遅れはまた
DTDと部分強化
正常な子どもでは、全ての反応が強化されるわけではない部分強化でも、学習が起こる。
これは、ADHDの子どもが部分強化では(定型と?ADHD内で?)異なるのに、連続強化では区別できないことを説明しうる。(いくつかの引用)
報酬の遅れの場合と同様に
もう一つの重要な側面は、部分学習では消去が起こりにくいということである。
これは部分強化消去効果(PREE)として知られている。
ラットでは、
消去はドーパミンのphasic放出がない状態で行動すると起こる。
DTD理論では、ADHDの子どもは部分強化ができないので、消去も早く起こる。
DTDと強化履歴の統合
高次の行動を分析すると、生物の行動はは直前の刺激によってのみ決まるのではなく、それらの内部での解釈にもよる。
DTD理論では、強化履歴の統合はドーパミン反応の移行による。
ドーパミン転移の失敗は
個別の強化子への感受性の増大は、ADHDの子どもが直前の環境に強く作用され、内部モデルの影響が小さいことを意味する。
ADHDの症状をメチルフェニデートが抑えることは広く知られている。
しかし
この予測を支持するように、メチルフェニデートは条件強化子の効果を増し、
細胞レベルでは分かっていないが、行動レベルではD-アンフェタミンは遅い強化子の選好を強める。
ラットではDTD理論に沿うように、遅い報酬への選好の増大は、遅延が明示された時のみ起こる。
DTD理論の文脈では
DTDと先行モデルの比較
表1.DTD理論による予測
DTDの基盤となる神経生物学的変化の機構
神経生物学的機構は
現段階では、このような転移は学習と選択課題で示されている。
相関研究では
破壊研究では
BLAは
側坐核は
側坐核コアの破壊によって強化が遅いと学習できなくなるが、早ければ学習できる。
OFCは