電脳ラボ

脳のコンピュータモデルに関する論文のレビューなどを細々と続けていこうと思います。

salienceについて

報酬系神経科学の領域で、salienceやsaliencyという言葉を目にするようになったのは、Kent C. Berridgeのincentive salience仮説以降でしょうか。それ以前から認知寄りの領域では視覚刺激の重要な要素に対して、salience(突起物、目立つもの)という語が使われていたようです。

精神医学の領域ではShitij Kapurのmotivational salience仮説でsalienceという語が認知された印象があります。KapurはBerridgeの仮説を基礎として、統合失調症の病態について説明を試みています。Kapurの仮説に興味を持った方は、ぜひBerridgeの論文にも目を通していただければと思います。

Berridgeの論文は当初から注目を浴びていましたが、定義が曖昧な点がいくつかあり、指摘を受けてBerridgeは数年ごとに自身の仮説を洗練させていったようです。具体的には学習心理学の概念を援用しながら、仮説の定義を明確にしていきました。ただし、初期の論文のインパクトを考えると、定義が明確になった反面、仮説がやや矮小化した印象もあります。

Computational Psychiatry

注文していた"Computational Psychiatry"という本が届いたのでご紹介。

Computational Psychiatry: New Perspectives on Mental Illness (Struengmann Forum Reports)

Computational Psychiatry: New Perspectives on Mental Illness (Struengmann Forum Reports)

 

 目次は以下のようになっています。 

 

導入
1. 最先端:精神医学における最近の挑戦と展望 Joshua A. Gordon and A. David Redish
2. 故障と欠陥:エンジニアの視点 A. David Redish and Joshua A. Gordon
精神医学の未解決問題
3. 精神疾患における複雑性と多様性:計算精神医学の出番 Nelson Totah et.al.
4. 精神病理を説明するのに計算精神医学は何を必要とするか:事実、ほぼ事実、ヒント Deanna M. Barch
計算 
5. 精神疾患の機構を研究するための計算論的アプローチ Zeb Kurth-Nelson et.al.
6. 精神機能と機能不全を脱構築するための計算論的認知神経科学アプローチ Michael J. Frank
7. 計算を疾患分類に繋げるにはどうしたらよいか Christoph Mathys
疾患分類
8. 精神医学的疾患分類の現状 Michael B. First
9. 崩壊の計算:信頼性工学は精神疾患を解明できるか Angus W. MacDonald III et.al.
10. 精神医学的診断を改善する新規な枠組み Shelly B. Fragel et.al.
11. 計算疾患分類と精密精神医学:概念の吟味 Karl J. Friston
事例
12. 精神医学の実際的問題に言及する計算アプローチの候補事例 Rosalyn Moran et.al.
13. 決め手に欠くが神経活動を計算経由で行動に繋げるのは悪くない P. Read Montague
14. 実践的計算精神医学への招待:統合的計算アプローチとリスク予測モデルと因果関係の処理 Martin P. Paulus et.al.
15. 感情評価の枠組み:うつと再発への応用 Quentin J. M. Huys
16. 精神医学的診断の疾患分類(カテゴリー方式とディメンション方式)の特徴からくる臨床的多様性:ニューロイメージングと計算精神医学からの洞察 John H. Krystal et.al.
結語
17. 精神医学から計算へ、そしてまた精神医学へ A. David Redish and Joshua A. Gordon

 

Computational Psychiatryという言葉は2010年頃から目にするようになりましたが、この本以外にもComputational Psychiatryについての本が数冊出ましたし、昨年の日本神経科学会でもComputational Psychiatryのセッションが開かれるなど、ここ数年で認知度が高まっているように感じます。

Computational Psychiatryの訳語としては、Computational Neuroscience(計算論的神経科学)に倣って計算論的精神医学とするのが無難でしょうか。"Computational"が意味するところは、数学的に("Mathematical"に)導出するのではなく、数式で記述したモデルを実際に動かしてみてその振る舞いを調べるということのようです。

ベースになっている計算論的神経科学の起源はそれなりに古く、半世紀は遡れると思いますが、研究者人口が増えたのは90年代の後半に強化学習モデルが流行してからという印象があります。現在は当時ほどの盛り上がりはありませんが、それなりの数の論文が出ていますし、一部の研究者は精神医学など近隣の領域まで研究対象を広げています。

編者のRedishはロボット工学→計算論的神経科学→計算論的精神医学と移行してきた研究者で、計算論的精神医学の業績としてはAddictionについての研究が有名です。

目次を見ると、彼以外にもP. Read Montagueなど、計算論的神経科学の分野でも活躍した研究者の名前がありますね。

Quentin J. M. HuysはPeter Dayanの弟子で、昨年の日本神経科学会のセッションではATRの田中沙織さんと共に座長をしていました。

計算論的精神医学の著名な研究者が執筆していますので、この分野に興味のある方はまずこの本を読まれたらよいのではないかと思います。

 

別冊日経サイエンス

しばらく神経科学の流行りの話題をフォローしていなかったので、別冊日経サイエンスの『最新科学が解き明かす脳と心』を読んでみました。

最近の分子レベルの知見を含んだ記事がいくつかあり、勉強になりました。

Scientific Americanの邦訳である日経サイエンスは良質な科学記事が多く、学部時代からお世話になっていました。またテーマごとの特集号である別冊日経サイエンスでは神経科学の話題が取り上げられることも多く、書店で目にした際には手に取るようにしています。

 

過去の神経科学の特集号に見落としたものがないか気になり、別冊日経サイエンスのバックナンバーに目を通してみました。

別冊日経サイエンスタイトル一覧 | 日経サイエンス

180巻までは上記のページから確認できるのですが、それ以降の巻は別冊の一覧からチェックするしかないようです。

別冊・本 | 日経サイエンス

このままではやや不便なので、181巻以降も含め、このページの下に別冊の巻数とタイトルを列挙してみました。

 

こうして見てみると、やはり神経科学に関連した特集号が多いですね。

一般読者にも興味を持たれやすい分野ということもありますが、ここ数十年の進歩が大きいことも一因ではないかと思います。

 

タイトル
1 別冊サイエンス 心理学特集 不安の分析
2 特集大陸移動 地球の再発見
3 特集新しい宇宙像 星の誕生と進化
4 特集エネルギー 新資源の探求
5 特集ライフ・サイエンス 人間性の生物学
6 特集新天文学 爆発する宇宙
7 特集動物の行動 超能力の秘密
8 特集地球の物理 プレート・テクトニクス
9 特集レーザー 未来をひらく光
10 別冊サイエンス 10 イメージの世界の通販/本明 寛 - 紙の本:honto本の通販ストア
11 特集動物社会学 サルからヒトへ
12 特集高エネルギー物理 素粒子の世界
13 特集エレクトロニクス 集積回路
14 特集考古学 文明の遺産
15 特集太陽系の天文学 惑星の素顔
16 特集情報処理 マイクロコンピュータ
17 特集 特集免疫学Ⅰ 抗体とリンパ球
18 特集大気科学 自然現象に挑む
19 特集免疫学Ⅱ 病気と免疫
20 特集通信技術 新しい情報伝達
21 特集生物機械 アニマル・エンジニアリング
22 特集生命の科学 遺伝子操作
23 aha! −ひらめき思考
24 数学ゲームⅠ
25 特集現代の天文学 超新星ブラックホール
26 THE PARADOX BOX 逆説の思考
27 マイクロエレクトロニクス
28 特集医学生物学 遺伝子の病理
29 特集都市 居住空間のデザイン
30 特集新しい細胞像 膜と運動
31 数学ゲームⅡ
32 マチュア サイエンス
33 特集軍事科学 兵器と軍縮
34 特集量子エレクトロニクス レーザーと光技術
35 ひらめき思考PartⅡ
36 数学ゲームⅢ
37 特集生体情報学 ホルモン
38 特集現代の医学 生と死
39 パーソナル コンピューター
40 アンセルムの冒険 コンピューターマジック
41 アンセルムの冒険 大空を飛びたい
42 太陽風と地球磁場
44 がん
45 メカトロニクス
46 ひらめき思考PartⅢ
47 遺伝子工学の現状と展望Ⅰ バイオテクノロジー
48 銀河系宇宙
49 遺伝子工学の現状と展望Ⅱ 遺伝子操作と社会
50 別冊サイエンス 脳を探る 別冊50
51 数学ゲームⅣ
52 特集バイオテクノロジー 遺伝子組み換えと細胞工学
53 特集軍事科学Ⅱ 最新兵器と軍備管理
54 特集パーソナルコンピューター 進化するソフトウェア
55 特集 素粒子 統一理論への歩み
56 特集視覚の心理学Ⅱ イメージの科学
57 ひらめき思考PartⅣ
58 量子力学の新展開
59 動物の行動と社会生物学
60 特集プレートテクトニクス 新しい地球像の探求
61 新版 マイクロエレクトロニクス
62 核戦争と医学 LAST AID
63 先端技術
64 特集オフィスオートメーション 新世代のビジネス
65 コンピューター数学
66 情報技術と文明 高度情報化社会をめざして
67 固体物理学 ミクロの物理と先端技術を結ぶ道
68 新材料
69 特集高エネルギー天文学 X線でみた宇宙
70 新しい医療技術
71 遺伝子と遺伝子工学
72 特集宇宙論 ビッグバン宇宙
73 多重活用時代のパソコン
74 コンピューター・ソフトウェア
75 特集軍事科学Ⅲ SDIと核戦争
76 ボイジャーの惑星探査
77 免疫系のメカニズム
78 細胞分子生物学
79 先見の科学技術「サイエンス」オリジナル論文コレクション
80 特集視覚の心理学Ⅲ 色・運動・イメージ
81 エイズへの挑戦
82 コンピューターレクリエーションⅠ 遊びの発想
83 高温超伝導
84 超伝導応用
85 特集素粒子 標準理論を超えて
86 特集光テクノロジー(上) 光伝送・情報処理
87 新コンピューター革命
88 特集光テクノロジー(下) ひろがるレーザー応用
89 宇宙の巨大構造
90 ガン遺伝子の解明
91 ガン細胞への挑戦
92 コンピューターレクリエーションⅡ 遊びの探索
93 破壊される地球環境
94 量子工学の創造
95 遺伝子の発現と制御
96 地球環境を守る
97 ボイジャー最後の旅
98 超新星爆発とパルサー
99 地球のダイナミックス
100 科学が変えた20年
101 地球を救うエネルギー技術
102 コンピューターレクリエーションⅢ 遊びの発見
103 特集素粒子 クォークから重い原子核
104 スーパーパソコン
105 コンピューターネットワーク
106 最新の免疫学 免疫系の成立と破綻
107 脳と心 (別冊日経サイエンス 107)
108 特集人類学 現代人はどこからきたか
109 宇宙の誕生と進化
110 免疫の最前線
111 糖鎖と細胞
112 量子力学パラドックス
113 コンピューターレクリエーションⅣ 遊びの展開
114 考古学の新展開
115 宇宙と生命
116 細胞のシグナル伝達
117 人類の祖先を求めて
118 21世紀のキーテクノロジー
119 核と戦争の20世紀
120 複雑系がひらく世界
121 凝縮系の物理 −ミクロの物理からマクロな物性へ
122 DNAから見た生物進化
123 特集脳と心の科学 心のミステリー (別冊日経サイエンス 123)
124 ガンはここまで治る 米国の研究最前線から
125 変わるネット社会
126 遺伝子技術が変える世界
127 最後のネアンデルタール
128 知能のミステリー 別冊日経サイエンス128
129 バイオニックフューチャー 生体工学と近未来
130 シミュレーション科学への招待 コンピューターによる新しい科学
131 21世紀宇宙への旅
132 ゲノム科学がひらく医療
133 進化する脳 (別冊日経サイエンス 133)
134 意識と脳 別冊日経サイエンス134
135 新時代に挑む エコサイエンス
136 宇宙論の新次元 理論と観測で迫る宇宙の謎
137 脳と心のミステリー 心はなぜ病むのか (別冊日経サイエンス 137)
138 ここまで来たナノテク
139 ポストゲノム時代の医薬革新
140 見えてきた宇宙の姿
141 量子が見せる超常識の世界 テレポーテーションから量子コンピューターまで
142 異説・定説 生命の起源と進化
143 世界を脅かす感染症とどう闘うか
144 驚異の太陽系ワールド 火星とその仲間たち
145 地球を支配した恐竜と巨大生物たち
146 崩れるゲノムの常識 生命科学の新展開
147 エイジング研究の最前線 心とからだの健康学
148 物理を創ったアインシュタインと天才たち
149 時空の起源に迫る宇宙論
150 脳から見た心の世界 part1 (別冊日経サイエンス 150)
151 人間性の進化 (別冊日経サイエンス 151)
152 人体再生 幹細胞がひらく未来の医療
153 地球大異変
154 脳から見た心の世界 part2 (別冊日経サイエンス 154)
155 社会性と知能の進化―チンパンジーからハダカデバネズミまで (別冊日経サイエンス 155)
156 宇宙創世記 素粒子科学が描き出す原初宇宙の姿
157 感覚と錯覚のミステリー―五感はなぜだまされる (別冊日経サイエンス 157)
158 温暖化危機 地球大異変 part 2
159 脳から見た心の世界 part3 (別冊日経サイエンス 159)
160 がんを知り がんを治す
161 不思議な量子をあやつる
162 低炭素革命 温暖化危機を超えて
163 感染症の脅威
164 ニュートリノで輝く宇宙
165 素粒子論の一世紀 湯川,朝永,南部そして小林・益川
166 脳科学のフロンティア 意識の謎 知能の謎 (別冊日経サイエンス 166)
167 見えてきた太陽系の起源と進化
168 生命の起源 その核心に迫る
169 数学は楽しい
170 こころと脳のサイエンス01 (別冊日経サイエンス 170)
171 エネルギー・水・食糧危機
172 数学は楽しい Part2
173 こころと脳のサイエンス02 (別冊日経サイエンス 173)
174 知覚は幻 ラマチャンドランが語る錯覚の脳科学 (別冊日経サイエンス 174)
175 宇宙大航海 日本の天文学と惑星探査のいま
176 マーチン・ガードナーの数学ゲームⅠ 新装版
177 先端医療をひらく iPS細胞,がん治療,創薬,医工連携
178 こころと脳のサイエンス 03 (別冊日経サイエンス 178)
179 ロボットイノベーション
180 時間とは何か?
181 こころと脳のサイエンス 4号 (別冊日経サイエンス 181)
182 マーチン・ガードナーの数学ゲームⅡ 新装版
183 震災と原発
184 成功と失敗の脳科学 (別冊日経サイエンス 184)
185 進化が語る 現在・過去・未来
186 実在とは何か?
187 宇宙をひらく望遠鏡
188 感染症 新たな闘いに向けて
189 都市の力 古代から未来へ
190 マーチン・ガードナーの 数学ゲームⅢ 新装版
191 心の迷宮 脳の神秘を探る (別冊日経サイエンス 191)
192 不思議の海
193 心の成長と脳科学 (別冊日経サイエンス 193)
194 化石とゲノムで探る人類の起源と拡散
195 空からの脅威
196 宇宙の誕生と終焉 最新理論でたどる宇宙の一生
197 激変する気候
198 脳が生み出すイリュージョン (別冊日経サイエンス)
199 量子の逆説
200 系外惑星と銀河
201 意識と感覚の脳科学 (別冊日経サイエンス)
202 光技術 その軌跡と挑戦
203 ヒッグスを超えて ポスト標準理論の素粒子物理学
204 先端医療の挑戦 再生医療感染症,がん,創薬研究
205 食の探究
206 生きもの 驚異の世界 進化と行動の科学
207 心を探る (別冊日経サイエンス)
208 生命解読 分子生物学の30年
209 犬と猫のサイエンス
210 古代文明の輝き
211 アートする科学
212 サイバーセキュリティー
213 生命解読2 細胞から個体へ
214 人類危機 未来への扉を求めて
215 重力波ブラックホール 一般相対論のいま
216 AI 人工知能の軌跡と未来 (別冊日経サイエンス)
217 地震と大噴火 日本列島の地下を探る
218 脳科学のダイナミズム 睡眠 学習 空間認識 医薬 (別冊日経サイエンス)
219 人類への道 知と社会性の進化
220 よみがえる恐竜 最新研究が明かす姿
221 微生物の驚異 マイクロバイオームから多剤耐性菌まで
222 食の未来 地中海食からゲノム編集まで
223 地球外生命探査
224 最新科学が解き明かす 脳と心 (別冊日経サイエンス)
225 人体の不思議

オペラント条件づけにおけるブロッキング

オペラント条件づけにおけるブロッキングの研究に興味が出たため、まずは『学習理論の生成と展開』で関連する項目を読んでみました。

オペラント条件づけについての章である4章に、「Rescorlaの階層的連合理論(p.154)」という節があり、そこでRescorlaの行ったブロッキングの研究が紹介されています。

実験の概略は

予備訓練 (S1→)R1→O1, (S1→)R2→O2

ブロッキング (S1,S2→)R1→O1, (S1,S2→)R2→O2
       (S1,S3→)R1→O2, (S1,S3→)R2→O1

テスト S2,S3

というもので、テストでのS2の提示はブロッキングにより反応を増加させませんが、S3の提示は反応と報酬の関係を変化させるため学習を生じ、反応を増加させます。

重要なのは、S3の提示下では求められる反応だけが変化したのではなく、得られる報酬が変化したわけでもないのですが、反応と報酬の組合せが変化したため、(ブロッキングによって)無視されなかったということです。

Rescorlaはこのような観察結果から、S-(R-O)という図式を提案しています。

個人的に関心があるのは、強化学習モデルではどのように表現できるかということで、報酬そのものが変化しているわけではないので、S3に価値が生じるモデルにするには工夫が必要になりそうです。

 

学習心理学のブックガイド

私自身、(近接領域の研究をしていましたが)元々学習心理学は専門でなく、ウェブ上やブックガイド的な本に書かれているリストを参考に、学習心理学の勉強を行いました。

現在でもまだ知識は不十分なのですが、その分野の論文がある程度理解できるようにはなったので、そのレベルまで到達するのに役に立った文献を紹介しようと思います。

学部生などで語学力があり、時間も十分にあるのなら欧米の教科書の原著を読むと力がつくとは思うのですが、ここでは近接領域の研究をしながら、あるいは他の仕事をしながら学ぶ人のために、なるべく日本語で書かれた、コンパクトにまとまっている本を挙げようと思っています。

 

学習心理学と銘打った本も中にはありますが、行動分析といったタイトルで学習心理学の基礎から(レスポンデント条件づけも含めて)解説している良書もあるため、それらも含めて挙げることにしました。

学習の一助になれば幸いです。

 

学習の心理―行動のメカニズムを探る (コンパクト新心理学ライブラリ)

学習の心理―行動のメカニズムを探る (コンパクト新心理学ライブラリ)

 

わかりやすい入門書だと思います。

『図解雑学』というシリーズがありますが、それと似た形式で、左ページに文章による説明が、右ページには図による説明が書かれています。

章ごとに参考図書が挙げてあるので、各章の内容をさらに詳しく勉強したいとき役に立ちます。

また引用されている研究については、元の論文が巻末に掲載されています。

図のページ、引用文献、索引等含めて200ページほどなので、短時間で学習心理学について概観できると思います。

 

メイザーの学習と行動

メイザーの学習と行動

 

有名な学習心理学の教科書です。

学部生向けに書かれた本だと思いますが、基礎から応用事例まで幅広い内容を扱っています。

古典的条件づけとオペラント条件づけの話題が中心ですが、メイザー自身が専門とする選択行動についても一章を割いて解説してあります。

基礎的な研究の話に多くのページが割かれていますが、応用行動分析のような応用事例の話題もところどころに出てきます。

また馴化と古典的条件づけに関しては、その行動の神経機構についての仮説も紹介されています。

個人的にはオペラント条件づけやRescorla-Wagnerモデルの神経機構として、Wickensの研究やSchultzの研究も載せて欲しかったところですが…今後の改訂に期待します。

 

行動の基礎―豊かな人間理解のために

行動の基礎―豊かな人間理解のために

 

この本も優れた学習心理学の入門書だと思います。

条件づけの話に入る前に、数章を割いて行動とは何か、環境変化とは何かなど、初学者が 飲み込みにくい用語について説明しています。

また類似した用語が登場する際には、それらを列挙して違いを説明するなど、読者への配慮が感じられます。

300ページ超ありますが、本のサイズは小さめで文章も比較的平易なので、読みやすいのではないかと思います。

 

学習心理学における古典的条件づけの理論―パヴロフから連合学習研究の最先端まで

学習心理学における古典的条件づけの理論―パヴロフから連合学習研究の最先端まで

 

古典的条件づけに関してはこの本が詳しいです。

テーマごとにその分野を専門とする日本人研究者による解説が書かれています。

上記のメイザーの本などで基本的な知識が身に付いていれば、そこまで難解な内容ではないと思います。

 

学習理論の生成と展開―動機づけと認知行動の基礎

学習理論の生成と展開―動機づけと認知行動の基礎

 

学習理論について、初期の研究から比較的最近の研究までを扱っています。

十分な知識がないとやや難解な印象を受けますが、広い範囲のテーマについて最近の話題まで紹介されているので、教科書以上の内容を知りたいときに便利だと思います。

この本の内容を消化した上でさらに詳細な知識が必要であれば、総説や原著論文にあたるのがよいのかと。

 

行動分析学 (有斐閣アルマ > Specialized)

行動分析学 (有斐閣アルマ > Specialized)

 

実験家と臨床家による学習心理学行動分析学の入門書で、基礎から応用まで幅広い話題をカバーしています。

図表も比較的多く挿入されており、理解が助けられます。

またSTEP UP!の項では、レスコーラ・ワグナー・モデルなどの発展的な内容や、ブライテンベルクの車など関連のある興味深い話題を紹介しています。

 

行動変容法入門

行動変容法入門

  • 作者: レイモンド・G.ミルテンバーガー,園山繁樹,野呂文行,渡部匡隆,大石幸二
  • 出版社/メーカー: 二瓶社
  • 発売日: 2006/01
  • メディア: 単行本
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応用行動分析の入門書は有名なものが何冊かありますが、個人的にはこれが一番わかりやすかったです。

『メイザーの学習と行動』と同じく二瓶社から出版されており、本の形式もメイザーのものと似ています。

章末にはまとめや練習問題などがあり、各章の内容を整理するのに役立ちます。

応用行動分析の本としては、基礎となる学習心理学の知見について詳しく書かれていると思います。

すでに学習心理学の本を何冊も読んでいると、以前読んだ本と内容が重複する部分もあるかもしれませんが…新しい内容を学ぶと同時に以前学んだ内容を復習するのも無駄ではないのかとは。

 

意思決定と経済の心理学 (朝倉実践心理学講座)

意思決定と経済の心理学 (朝倉実践心理学講座)

 

タイトルの通り、行動経済学など経済学寄りの話題もあるのですが、前半は(実験的)行動分析学の話が中心であり、行動経済学の話題も行動分析をベースに解説してあります。

マッチング則から始まり、遅延割引、変化抵抗など、行動分析学の重要な話題が網羅されており、非常に勉強になりました。

後半の意思決定のバイアスの話も、興味深く読めるのではないかと思います。

この本によると学習心理学から行動分析学が派生し、さらにそこから行動経済学に繋がる流れもあるようです。(どちらかというと認知心理学からの影響の方が強い印象がありますが)

 

学会情報

自分の関心のある学会を、分野ごとに列挙しておきます。

カッコ内は大会の開催される時期です。

年によっては例年と異なる時期に開催されることもありますので、あくまで一つの目安と考えてください。(特に他の学会と合同で開催される年は、時期が異なることが多いです。)

 

〈理学系〉

神経科学学会 | The Japan Neuroscience Society(7月~9月)

日本神経化学会(9月)

Home|認知神経科学会(7月~8月)

日本脳科学会Japan Brain Science society(11月)

日本生理学会 | Lively Learning of the Logic of Life. ―からだのしくみをリアルタイムでときあかす。―(3月)

公益社団法人日本動物学会(9月)

日本動物行動学会(11月)

日本分子生物学会(11月~12月)

JSMB(日本数理生物学会、7月~8月)

 

〈医学系〉

日本神経精神薬理学会(9月~11月)

JSCNP | 日本臨床精神神経薬理学会(10~11月)

JSBP | Japanese Society of Biological Psychiatry(日本生物学的精神医学会、9月)

公益社団法人 日本精神神経学会(6月)

日本神経精神医学会(12月)

Home | 日本児童青年精神医学会(10月)

JSPPN:日本小児精神神経学会ホームページ(10月)

日本社会精神医学会(1月~3月)

日本精神分析学会(6月~8月)

日本神経学会(5月)

日本臨床神経生理学会(11月)

 

〈工学系〉

日本神経回路学会(8月~9月)

人工知能学会 (The Japanese Society for Artificial Intelligence)(6月)

情報処理学会(3月)

電子情報通信学会(3月)

 

〈心理学系〉

日本心理学会(9月)

The Japanese Society for Animal Psychology 【日本動物心理学会】(7月~9月)

日本基礎心理学会(11月~12月)

生理心理学会(5月)

一般社団法人 日本発達心理学会(3月~4月)

日本教育心理学会(8月~11月)

日本社会心理学会(9月~10月)

日本認知科学会(9月)

一般社団法人 日本心理臨床学会(5月、9月)

J-ABA 一般社団法人日本行動分析学会(The Japanese Association for Behavior Analysis)(6月~8月)

行動経済学会(11月~12月)

 

〈その他〉

研究・技術計画学会(10月)

 

〈雑感〉

自分は強化学習ベースの脳モデル・精神疾患モデルに興味があるのですが、そういう知見を得るためにはどの学会に参加するのが適当でしょうか。

 

神経系の最大の学会は神経科学学会で、計算モデルのセッションや、報酬系のセッション、精神疾患のセッションなどもあります。

神経系の学会は他にもありますが、神経化学会など、細胞レベルの研究が中心の学会が多いので、行動レベルに関心のある人は注意が必要です。

 

精神医学系の学会も多いのですが、脳内の物質の動態などと絡めた研究に興味があるのであれば、精神薬理系の学会や生物学的精神医学会などに参加するのがいいと思います。精神医学の主流の研究と神経科学は、まだ距離がある印象です。

神経学会は神経内科や脳外科に関連した研究が中心ですが、疾患の生物学的機序に関心があるのであれば、参加してみてもいいと思います。

 

日本心理学会は心理系の最大の学会で、様々なセッションがあります。臨床寄りのものもありますし、学習心理学のような基礎的なものもあります。

学習心理学会というものはないのですが、動物心理学会は学習心理学に関連した研究が中心です。最近は薬物の影響や遺伝子との関係を調べるなど、神経科学に近い内容の発表が増えている印象です。対象とする動物はラット、マウス、サルなどが多いですが、鳥類や魚類を用いた研究もあり、多様性があります。基礎心理学会でも学習心理学に関連した発表がそれなりにありますが、こちらは古典的な手法を用いたものが多い印象です。

行動分析学会は、学習心理学の知見に基づき発達障害などに対する支援を行う応用行動分析の学会なので、ヒトの行動についての興味深い知見が得られるかもしれません。動物(ラットやハト)を用いた基礎的な研究発表もあります。ある意味では、伝統的な学習心理学の研究が強く受け継がれている学会かもしれません。

発達心理学会や教育心理学会にも関連した研究がなくはないのですが、動物を用いた基礎的な研究は少ない印象です。

 

モデル化の手法などに関心があれば工学系の学会を覗いてみるのもいいと思います。神経回路学会はいわゆるニューラルネットの研究から始まった学会ですが、強化学習やその他の機械学習についての演題もあります。

情報処理学会や電子情報通信学会は規模の大きな学会なので、全く関係のない研究も多いですが、一部のセッションでは強化学習に関連した演題があります。

 

常微分方程式の近似計算について

常微分方程式を近似計算するプログラムをしばらく書いていなかったので、復習がてらまとめてみました。

近似計算の方法はいくつかありますが、基本的にテイラー展開した式の何番目の項まで使うかという問題だと思います。

それなりの精度を必要とするシミュレーションの場合は、ルンゲクッタ法を使うことがほとんどだと思いますが、大雑把な挙動だけ分かればいいという場合にはオイラー法などを用いることもあるようです。

 

今回は神経科学の研究者には馴染みのある、Hodgkin-Huxley方程式の数値計算を、オイラー法、修正オイラー法、ルンゲクッタ法を用いて行ってみました。

自作のGUIに結果を表示しており、軸が表示されていませんが、横軸は時間で全体が100msec、縦軸が電位で上限が150mV、下限が100mV(ただし細胞外の電位ではなく細胞内の静止電位を0Vとしています)です。

印加電流を10μAにすると規則的に発火することが知られているため、その条件で数値計算を行いました。 

 

まずは刻み幅(dt)を0.1msecにした場合の、オイラー法の計算結果。

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途中で電圧の値が発散してしまいました。

 

次に刻み幅(dt)を0.1msecにした場合の、修正オイラー法の計算結果。

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こちらもオイラー法とほぼ同様の結果に。

 

次に刻み幅(dt)を0.1msecにした場合の、ルンゲクッタ法の計算結果。

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こちらでは実験データの即した規則的な発火が起きています。

刻み幅が同じであれば、やはりオイラー法(修正オイラー法)よりもルンゲクッタ法の方が精度のよい結果が得られることが分かります。

 

最後に刻み幅を(dt)を0.01msecにした場合の、オイラー法、修正オイラー法、ルンゲクッタ法の計算結果。

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刻み幅を小さくすれば、Hodgkin-Huxley方程式の場合には、オイラー法でも実験結果を再現することができるようです。

 

〈参考資料〉

【C言語で数値計算】 常微分方程式の近似計算(オイラー法) - Qiita

ほかに修正オイラー法やルンゲクッタ法の記事も。

 

http://sstweb.ee.ous.ac.jp/lecture/ee/NumericalCalculations/ncd20061211.pdf

常微分方程式の数値解法

 

http://www.sit.ac.jp/user/konishi/JPN/L_Support/SupportPDF/Runge-KuttaMethod.pdf

ルンゲクッタ法による常微分方程式の数値解法

 

CiNii 論文 -  Hodgkin-Huxleyモデルの数値シミュレーション : 脳機能の解明に向けて

 

ODE: from Euler to Runge-Kutta

Euler法とその改良

 

https://www.nips.ac.jp/huinfo/documents/lecture_10feb2006j.pdf

講義参考資料 井本 敬二

 

数理生理学〈上〉細胞生理学

ニューメリカルレシピ・イン・シー 日本語版―C言語による数値計算のレシピ