電脳ラボ

脳のコンピュータモデルに関する論文のレビューなどを細々と続けていこうと思います。

Computational Psychiatry

注文していた"Computational Psychiatry"という本が届いたのでご紹介。

Computational Psychiatry: New Perspectives on Mental Illness (Struengmann Forum Reports)

Computational Psychiatry: New Perspectives on Mental Illness (Struengmann Forum Reports)

 

 目次は以下のようになっています。 

 

導入
1. 最先端:精神医学における最近の挑戦と展望 Joshua A. Gordon and A. David Redish
2. 故障と欠陥:エンジニアの視点 A. David Redish and Joshua A. Gordon
精神医学の未解決問題
3. 精神疾患における複雑性と多様性:計算精神医学の出番 Nelson Totah et.al.
4. 精神病理を説明するのに計算精神医学は何を必要とするか:事実、ほぼ事実、ヒント Deanna M. Barch
計算 
5. 精神疾患の機構を研究するための計算論的アプローチ Zeb Kurth-Nelson et.al.
6. 精神機能と機能不全を脱構築するための計算論的認知神経科学アプローチ Michael J. Frank
7. 計算を疾患分類に繋げるにはどうしたらよいか Christoph Mathys
疾患分類
8. 精神医学的疾患分類の現状 Michael B. First
9. 崩壊の計算:信頼性工学は精神疾患を解明できるか Angus W. MacDonald III et.al.
10. 精神医学的診断を改善する新規な枠組み Shelly B. Fragel et.al.
11. 計算疾患分類と精密精神医学:概念の吟味 Karl J. Friston
事例
12. 精神医学の実際的問題に言及する計算アプローチの候補事例 Rosalyn Moran et.al.
13. 決め手に欠くが神経活動を計算経由で行動に繋げるのは悪くない P. Read Montague
14. 実践的計算精神医学への招待:統合的計算アプローチとリスク予測モデルと因果関係の処理 Martin P. Paulus et.al.
15. 感情評価の枠組み:うつと再発への応用 Quentin J. M. Huys
16. 精神医学的診断の疾患分類(カテゴリー方式とディメンション方式)の特徴からくる臨床的多様性:ニューロイメージングと計算精神医学からの洞察 John H. Krystal et.al.
結語
17. 精神医学から計算へ、そしてまた精神医学へ A. David Redish and Joshua A. Gordon

 

Computational Psychiatryという言葉は2010年頃から目にするようになりましたが、この本以外にもComputational Psychiatryについての本が数冊出ましたし、昨年の日本神経科学会でもComputational Psychiatryのセッションが開かれるなど、ここ数年で認知度が高まっているように感じます。

Computational Psychiatryの訳語としては、Computational Neuroscience(計算論的神経科学)に倣って計算論的精神医学とするのが無難でしょうか。"Computational"が意味するところは、数学的に("Mathematical"に)導出するのではなく、数式で記述したモデルを実際に動かしてみてその振る舞いを調べるということのようです。

ベースになっている計算論的神経科学の起源はそれなりに古く、半世紀は遡れると思いますが、研究者人口が増えたのは90年代の後半に強化学習モデルが流行してからという印象があります。現在は当時ほどの盛り上がりはありませんが、それなりの数の論文が出ていますし、一部の研究者は精神医学など近隣の領域まで研究対象を広げています。

編者のRedishはロボット工学→計算論的神経科学→計算論的精神医学と移行してきた研究者で、計算論的精神医学の業績としてはAddictionについての研究が有名です。

目次を見ると、彼以外にもP. Read Montagueなど、計算論的神経科学の分野でも活躍した研究者の名前がありますね。

Quentin J. M. HuysはPeter Dayanの弟子で、昨年の日本神経科学会のセッションではATRの田中沙織さんと共に座長をしていました。

計算論的精神医学の著名な研究者が執筆していますので、この分野に興味のある方はまずこの本を読まれたらよいのではないかと思います。